宙ぶらりんの日々

新婚の派遣OL、お金はまだない

離婚した家族は、別々の幸せへと向かってる

 

 

 

父親・妹・私の三人で焼き肉へ行った。

私の事情を話すと、父と母は1年前に離婚している。私が子供のころから、ずっと不仲で、いつ離婚するんだろうと感じていた。二人とも嫌悪しあっていたのだが、妹が社会人になるまではという意見だけは共通していた。妹が無事に就職し、二人は離婚届を提出。仲がいいのか、悪いのか。

 

母は父親が大嫌いで、そうすると必然的に子供も父親が嫌いになる。同じ屋根の下にいるのに話さない、10年くらいその状態だった。

そんな親不孝な娘たちにも関わらず、父親は月に一回会いたいと言ってくれた。それを聞いた私は正直「面倒だなあ」と感じていて。だけど10年も無視をしていた手前、さすがに言えなかった。

 それから月に一回ご飯をすることになった。

半年後には、新しい奥さんを紹介された。私が男子高校生だったらグレてたぞ。

 

私は父親と定期的に会っていたのだが、妹は早々に会うのを拒否していた。気持ちは分かる。父親の無神経な発言や、無遠慮な行動は、腹ただしく不快になる…私も似たような部分があるから、あまり気にならないけれど、人に潔癖な妹は会うのが苦痛なようだった。

それでもめげないのが父という生き物。何度も何度も誘い、ようやく妹との約束を取り付けた。妹は交換条件であうことを決めたそう。「姉もよぶこと」…私は生贄として召喚された。

 

父親が予約した焼き肉屋で、肉を焼く三人の姿。

予約したかった焼き肉屋はどうやら定休日らしく、近くの焼き肉屋を予約してくれた。私は残業で遅れていったのだが、妹から大量のラインが。「はやく来て」「はしって」「ついた?」ごめんよ、妹。

ようやくお店に着いて絶句。あまりにも狭い入口だったから。なんだか汚いし。こんなところに二人にさせてしまった罪悪感を抱えつつ、急な勾配の階段を駆け上った。

 

中は意外ときれいで、昔ながらの雰囲気を漂わせたお店だった。少し安心しつつ、奥にいた二人のもとへ。開口一番、父親が謝ってきた。「こんな汚い店でごめんな」出た無神経発言。妹が「こういうお店いいじゃん」とフォローを入れる。

大きな肉が焼かれていた。昔、中国の屋台で見たアヒルの首のような、長細い肉だった。聞くとカルビらしい。ぐうとお腹が鳴った。

席について、店員のおばさんがやってくる。生ビール、父親のグラスも空だったので、二つ、と付け加える。久しぶりと声をかけ、仕事が残業になった理由を話した。当たり障りない話をしていると、生ビールがやってきた。父親が機嫌よくグラスをあげる。

乾杯、という響きが好きだ。からん、と軽く鳴るグラスの音も。

 

色んな話をした。

 

新しい彼女とは籍を入れないこと。どうやら国籍が違うと入れられない場合があるようだ。ちなみに相手は中国人である。

新しい彼女の息子が結婚したらしい。初孫だ、とほほ笑む父親の顔に影が差す。どうやら息子の奥さんが中々のクセ者らしい。

どうやら父親と妹は半年ぶりの再開らしい。「やっと会えたよ」と泣きまねをする父親に苦笑する。「お姉ちゃんの彼氏の父親に会ってみたい」と言われた。釣りが趣味なところに惹かれてるらしい。父親が悔しがっていて少しだけ笑う。

 

肉が焼けたのでハサミで切る。固いが、思いのほか美味しかった。

 

主に私と父親がしゃべり続ける。今の仕事はどうだ。人が変で。会社なんてそんなもんだ。

妹は時々相槌をうち、かすかに笑いながら聞き続けている。妹は聞き上手だ。中学生の頃は、学校に忍び込んで警察にもお世話になったのに。更生して今は福祉の仕事に従事している。おバカだけど、顔はかわいいし、仕事も頑張っている。そして何より愛されるオーラがある。姉にはないけど、妹には備わっているもの。

 

カルビとタンが運ばれてくる。どんどん運ばれてくる。何がどの肉か分からない。どれも美味しい。特にホルモンが最高だった。溶けるような感触に目を細める。

 私はハイボールを、父は焼酎を、妹は梅酒を飲んだ。いい夜だった。

 

 

帰り際、いつもコンビニでスイーツを買ってくれる。

カゴを持ってコンビニ捜索。昔好きだったスティック型のお菓子がなくて少し落胆する。ひとまず明日のお昼のカップラーメンと、口内炎ができたからエナジードリンクをカゴにいれた。

私と彼氏の分で、ケーキ2個と、プリン2個いれる。コンビニスイーツは少し高いから嬉しい。

吟味している妹の隣で悩む。すると父親が気まずそうに声をかけてきた。

 

「Aの分も買ってあげて」

 

驚いた。

Aというのは母のことだ。離婚してから、父親は私の母をイニシャルで呼ぶ。私自身そこに嫌悪感はない。父親も悪かったけれど、母の行動もひどいものだったから。彼女を忘れようとする父を責めることはできない。

そう、父は母のことを忘れようとしていたのだ。新しい彼女をつくって、都内で家を買って、幸せになろうと決意したのだ。

 

だから驚いた。

 

私と妹は母の好きなヨーグルトを入れて会計した、2600円だった。

店員さんに袋を2枚用意してもらって、それぞれに分ける。妹はヨーグルトばかり買っていた。

 

帰り道、それぞれの電車に乗った。

みな同じ屋根の下に暮らしていたのに。それぞれ違う場所へと帰る。不思議だ。

 

 電車に揺られて、帰った。最寄り駅についたとき、お酒の浮遊感と、父の言葉がブランコのように頭の中で揺れていた。ホームに降り立った時、少しだけ雨の匂いがした。温かいものが胸に灯る。おそらくこれが幸せというやつなんだろう。

 

 

 

 今週のお題「おとうさん」