宙ぶらりんの日々

新婚の派遣OL、お金はまだない

さびしさの果て、死神はほほえむ

 

 

 

久々に大学時代の友人と会った。

昔と変わらない姿でひとまず安心する。2年ぶりだった。

仕事の話や昔話に花を咲かせた後、食事のメインがやってきた。サーロインステーキ200g、きれいに盛り付けされている。端に彩りの野菜が盛り付けられ、中央には薬草が飾られている。料理の感想を一通り述べたよと、友人はぽつりと言った。

 

「最近は、アングラな世界で生きてる」

 

「アングラ」と聞くとグロテスクな意味合いを含んだ『裏世界』を指すこともあるが、ここでは性的な意味だと一瞬で察した。

おとなしそうな顔をして、性に対する情熱が、一般人の3倍くらいある友人。そのくせ顔にはまったく出ないのだ。

ワインを口に含んで、彼女は話を続ける。

 

えっちな下着を着て、イベントで撮影してもらっているの。

 

好奇心が湧き上がる。写真を見せてと頼むと、すんなりと見せてくれた。

そこにいたのは予想の6割くらい、布の面積が少ない下着をつける彼女の姿だった。

ほとんど紐に近い下着で胸を隠しており、乳首以外の部分は露わになっていた。黒の紐から、白い下乳があふれている。下半身も同じように、大切なところ以外はすべて無いものと等しかった。しかもサイズが小さいのか、太ももに食い込んでいる。下着の意味を成してないな、心の中で薄く笑う。

そして驚いたのは、彼女が素顔だったことだ。

マスクもつけず、ウィッグもつけず、いつもより派手な化粧を施した彼女がそこにいた。隠されたのは、全体の1割にも満たない。

まったく知らない世界に、言葉にできないまま頷いていた。彼女の言葉は続く。

 

自分の前に箱を置いてね。カメラマンは指定の料金をそこに入れて、私を撮影する。相場? んー私は安く設定してるけど、チェキ500円・自前カメラ1000円でやってるよ。半日で1万くらいの稼ぎかな。まだ始めたばかりだから。

 

彼女の言葉には、これからも撮影を続ける意思を感じた。どろり、腐った泥を触った感覚がする。振り払うように、「すごい世界だなぁ」穏やかに言った。

彼女とはもう5年くらいの付き合いだ。そんな撮影に行っていても、特段驚くことではない。自分の性欲を満たすために彼氏をつくっては振って、つくれない時は一時的に用意した。以前は、ある男に飼われたと言っていた。色んな女性を飼っている悪趣味な男に今、飼われてるの。

 

彼女を軽蔑したことは一度もない。だけど心がザワザワとするのは何故なんだろう。聞いてはいけない質問をぶつけてしまいそうなのを堪える。ねえ、あなたはそれでいいの?

 

彼女が体を重ねるのは、一人がさびしいから。共感はできないけれど、理解はしていた。

彼女の在り方をずっと見てきた。だけど今回は何かが違う。死神のような生物が、彼女の後ろにいたような気がしたのだ。

 

止めるべきなのかもしれない。迷いが生じる。

そんな趣味へ行っては駄目だよ、どうか戻ってきて。

彼女はさびしいだけなのだ。異性に声をかけられたい、褒められたい、ただそれだけなのだ。

 

彼女は縁があって、その「アングラ」な世界へ踏み入った。だけど30までいってしまったら、彼女に声をかける人は極端に減るだろう。ほそぼそと続けていくのか、世界を変えるのか、どんな選択をするのか検討もつかない。だけど次の選択肢が、彼女のさびしさを埋めてくれるものではなかったら、彼女はどうなってしまうのだろう。

 

さびしさの果て、死神はほほえむ。

止めるべきなのか、私にはまだ、分からない。