宙ぶらりんの日々

新婚の派遣OL、お金はまだない

ネイル処女を悲しく散らしてしまった話



「ネイルするとテンションあがりますし、ずっとネイルしますよ」

 

頭が弱い後輩から言われたセリフだった。「そう」相槌をうって、爪を見つめた。何の手入れもされていない、薄ピンクでやや深爪。二枚爪になりやすいところを見ると、あまりよくない状態なのだろう。かわいそうな爪。可愛がられることもなく、飾られることもない。頑張って指先を守ってくれているのにな。

ふと爪への憐憫が生まれ、私はスマホを取り出した。実に様々なサロンがあるのだと、感心しながらスクロールする。そして職場から近いネイルサロンを適当に予約した。

 

 

仕事を終えて、ファミレスで晩御飯を食べる。少し時間があったので、ブログを読み漁る。「池袋でぼったくりの店」というタイトル。頭を使わなそうな記事だったので読む。「池袋で大人気!口コミは驚異の4.1!等と大げさな文句のところは大体ぼったくり」と書いてあった。どこかで見たことあるなと感じて、時計を見た。そろそろ時間だ。会計をして外へ出る。

 

サロンへの地図を出すため、URLをクリックする。『有楽町で大人気ネイルサロン!口コミは驚異の4.3!』あれ、これどこかで見たぞ。大げさな文句。人気店のはずなのに、相場より大分安い技術料。都心のネオンがうるさい。ちかちか、視界の隅で笑うように光り続ける。笑い声から逃げる様に、目を閉じた後に地図を開いた。徒歩3分。ネオンに包まれながら向かう。

 

案の定、初めてのネイルはあまり良くない結果に終わってしまった。

まず担当者が好きになれなかった。閉店間際だったのか、やけに疲れていた。さらに私は「新規さん限定コース」というもので、早い話、相場に対して安かったのだ。疲労プラス金にならない客、ということもあって、明らかに適当に扱われた。せっかくネイル処女を捧げたのにあんまりだ。

二つ目にネイルのデザインがあまり好きになれなかった。派手にならないようピンク色にして、爪が伸びてきても違和感がないようにグラデーションにした。そこまではよかったはずだ。しかしグラデーションの種類で失敗した。思ったよりラメが強かったのだ。光に当てるたびに、きらきらと強く放ち続ける。まるで10代の女子高生みたいに。あまりに輝きすぎているもの、きれいすぎるものは、眩しすぎて疲れてしまう。

 

はぁとため息をついて、一部始終を友人に話す。パスタをくるくると巻きながら。友人は尋ねる。いくらだったの?

3980円のところを、クーポン利用して2500円でした。何故か敬語で答える私。安いね。うん安い。

あのね、友人は呆れながら呟く。2500円で接客も良くて、自分が満足行くようなネイルをしてくれる人は善人か馬鹿しかいないと思うよ。

わかってるよ、私は拗ねる。そんなのお風呂で散々考えました。

 

私の落ち度1、ネイル処女に投資しなかったこと。適当に決めてはいけなかったのだ。職場から近いし、安いし、まぁいいか。それではいけなかったのだ。相場より安いということは、何かを犠牲にしているということだ。今回は接客サービスだった。そこを削って提供されたネイル。私の処女は心が満ちないまま散りましたとさ。

 

私の落ち度2、自分の理想を明確化しなかったこと。ネイルさえすれば心がウキウキして、ハッピーになるなんてことはない。だったら自分で塗れば良い。あらゆる種類があって、塗り方があって、様々な組み合わせの先にネイルがあるのだ。しかし私は行けばなんとかなると思っていた。プロに任せれば幸せにしてくれると、お気楽に考えていた。担当者はネイルに関してはプロでも、私に関しても全くのど素人だ。私は私のプロとして、情報を集め、好みを分析して提供しなければ行けなかったのだ。しかし私はどちらも担当者に押し付けてしまった。爪は提供します、とりあえず幸せにしてくださいねプロでしょう、と。

 

わかっていたのだ。反省もしている。別に担当者を恨んだりなんかしていない。ただ共感して欲しかったのだ。「えぇーそれは嫌だねー」そんな風に。しかし友人は何も言わずにパスタを食べている。私も仕方なくパスタをくるくるする。

頭の弱い後輩が頭に浮かんだ。彼女ならこういう時、どうお願いするだろう。ねぇ優しくして、だって私、ネイル塗るの初めてだったのよ。